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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)5324号 判決

原告 田中昭夫

右訴訟代理人弁護士 森虎男

被告 成塚明

右訴訟代理人弁護士 土谷明

主文

一  被告は原告に対し金九五万七四一三円及びこれに対する昭和五五年五月三一日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮りに執行することができる。但し、被告が金五〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告は原告に対し金一五七万四六七二円及びこれに対する昭和五五年五月三一日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行の宣言。

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

三  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  原告は、昭和五三年三月二九日、訴外梶木幸雄に対し、別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)を、期間同月二一日から昭和五四年三月二〇日まで、賃料一ヶ月金七万五〇〇〇円を毎月五日限り当月分を支払うこと、共益費一ヶ月金三〇〇〇円を毎月五日限り当月分を支払うことの約定で賃貸し、被告から敷金二二万五〇〇〇円を受取った。

二  被告は、前項の契約成立と同時に、梶木の原告に対する本件建物賃貸借契約上生じる一切の債務について連帯して保証した。

三  原告と梶木との本件建物賃貸借契約は、昭和五四年三月二〇日の経過と同時に、法定更新された。

四  梶木は、昭和五四年三月分から同年一〇月分までの本件建物の賃料及び共益費合計金六二万四〇〇〇円を支払わなかったので、原告は、同年一一月七日到達の書面で、右延滞賃料等を七日以内に支払うよう催告し、右支払がないときは賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

五  しかるに、梶木は本件建物を明渡さなかったので、原告は、昭和五四年一一月一九日、梶木を被告として、当庁に建物明渡請求訴訟を提起し、昭和五五年三月四日、原告勝訴判決を得、右判決は、同月二八日、確定したが、梶木は任意に明渡をしないので、原告は、同年五月一五日、当庁執行官に委任し、明渡の強制執行をなした。

六  したがって、原告は梶木に対し、本件建物賃貸借契約に基づき、次のとおりの金員を請求する権利がある。

1 金一一三万一〇〇〇円 昭和五四年三月一日から昭和五五年五月一五日まで一ヶ月金七万五〇〇〇円の割合による賃料又は同相当損害金及び一ヶ月金三〇〇〇円の割合による共益費の合計金額

2 金六万六〇〇〇円 原告から梶木に対する訴訟費用として訴外森虎男弁護士に支払った金額

3 金五万二六七二円 本件建物明渡強制執行の費用として、当庁執行官に支払った金額

4 金四五万円 本件建物明渡強制執行の費用として、訴外阿保範雄に支払った金額

5 金一〇万円 本件訴訟の費用として森虎男弁護士に支払った金額

6 右1ないし5の合計金額から、原告が受取った敷金二二万五〇〇〇円を差引いた残金一五七万四六七二円が請求金額である。

七  よって、原告は被告に対し、連帯保証契約に基づき、右金一五七万四六七二円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五五年五月三一日から右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する被告の認否)

一  請求原因第一ないし第三項は認める。

二  同第四ないし第六項は知らない。

(被告の主張)

被告と原告との保証契約は、昭和五四年三月二〇日に賃貸借契約が満了すると共に終了し、契約更新後も被告の保証債務が生じることを前提とする原告の主張は理由がない。

(被告の主張に対する原告の答弁)

一  借地法の適用を受ける建物の賃貸借が法定更新された場合は、保証人の責任は更新された賃貸借についてその効果を持続するものであり、被告の主張は理由がない。

二  仮りに被告の主張が認められたとしても、被告は、昭和五四年一〇月八日、原告に対し、梶木の原告に対する不払賃料を保証人として支払う義務があることを承認した。

(原告の答弁第二項に対する被告の認否)

否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第一ないし第三項はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、被告は本件建物賃貸借の満了と共に、保証人である被告の責任は終了した旨主張するので判断するに、民法六一九条には、賃貸借契約は黙示の更新がなされたときは、賃借人の提供した敷金以外の担保は消滅する旨の規定があり、右趣旨によれば、第三者がなす保証債務も更新後には及ばないとも考られうるが、借家法の規定を受ける建物賃貸借は期間の更新が原則であり、いわば期間満了と同時に更新の効果が自動的に生じる客観的な制度ともいえるもので、実際においても、賃借権は更新によって存続することは常識化しており、賃貸借の保証債務はほぼ一定のもので、保証人の予想しない多額のものが通常発生しないことからしても、保証人たる第三者といえども、予め、賃貸借が更新により存続することを十分予想でき、また予想すべきであるから、保証人と賃貸人との間で特約がない以上、原則として、賃貸借更新後も賃借人の債務を保証する責任は存続するというべきで、被告の主張は理由がない。

三  《証拠省略》によれば、請求原因第四、第五項を認めることができる。

四  請求原因第六項について判断するに、被告の保証債務が更新後にも及ぶ以上、更新後の未払賃料及び賃借人の賃貸借終了後の本件建物返還義務並びにその不履行による損害賠償義務についても被告は保証する責任を負うことになる。

そこで原告が主張する各請求につき検討するに

1  《証拠省略》によれば、梶木は原告に対し、昭和五四年三月一日から同年一一月一四日まで一ヶ月金七万五〇〇〇円及び金三〇〇〇円並びに同月一五日から昭和五五年五月一五日までの同額の損害金を支払っていないことが認められ、右合計金一一二万九七四一円(昭和五五年五月分は三一日のうち一五日分として計算)については被告は保証人として支払う義務がある。

2  原告は梶木に対する訴訟の弁護士費用を請求しているが、《証拠省略》によって認められる、訴訟の内容、梶木の訴訟に対する態度などからして、右費用は梶木の返還義務不履行による原告の損害としては相当因果関係があるとは認められない。

3  《証拠省略》によれば、原告は梶木が本件建物を任意に明渡さなかったため、当庁執行官に強制執行を委任し、その費用としては合計金五万二六七二円を支払ったことが認められ、右費用は梶木の返還義務不履行による原告の損害として、被告は支払う義務がある。

4  原告は右強制執行のため雇った阿保の費用及び本件訴訟の弁護士費用を請求しているが、いずれも原告の損害としては相当因果関係があるとは認めることができない。

したがって、原告は被告に対し、右1及び3の合計金一一八万二四一三円から原告が受領した敷金二二万五〇〇〇円を除く金九五万七四一三円を請求する権利がある。

五  よって、原告の本訴請求のうち、金九五万七四一三円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五五年五月三一日から右支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の限度では理由があるが、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行及びその免脱の各宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小松峻)

〈以下省略〉

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